CASE STUDY

導入事例

作業の与件にも踏み込み現場の雇用安定化 持続可能な物流に向け荷主の責務を果たす

三菱食品株式会社様
お話を伺った方
三菱食品株式会社
SCM統括 物流DX推進オフィス室長 白石 豊 様(写真左)
物流オペレーション本部 戦略オフィス室長 跡治 永 様(写真左)
ご利用サービス
事業
食品卸

ドライバーや庫内作業員などの現場労働力を、持続可能な食品物流を構築する上での制約条件と見定めている。荷主としての責任を果たすため、物流パートナーや取引先と情報を共有して作業の前提条件にまで踏み込んで雇用の安定化を図る。KURANDOの「ロジメーター」をそのツールとして利用している。 (本誌編集部)

すべての主要拠点にロジメーター

大手食品卸の三菱食品は全国約300カ所に物流拠点を展開している。庫内作業は基本的に各地の物流協力会社に委託している。その庫内労務実態を可視化するツールとしてKURANDOの「Logimeter(ロジメーター)」を利用している。

 

2021年度に関東エリアの17拠点に導入して効果を確認できたことから、全国展開に踏み切った。22年度は22拠点、今年度は45拠点に導入して、24年度中にも主要100拠点への横展開を済ませる計画だ。労務データは三菱食品だけでなく協力会社も参照できる仕組みになっており、両社で問題点を確認し、改善を進める。

 

同社は「食のビジネスを通じて持続可能な社会の実現に貢献する」ことをパーパスに掲げ、持続可能な食品物流の構築を目下の最大の課題の一つに位置付けている。庫内労働力の安定確保はその必要条件だ。同社の白石豊SCM統括 物流DX推進オフィス室長は「2024年問題でドライバー不足が注目されているが、それに劣らず庫内作業員も集まりにくくなっている。現場の労務管理は本来、協力会社の役目だが、われわれ荷主としても傍観しているわけにはいかない」という。

 

まずは実態の把握に乗り出した。これまでは庫内作業の実績データを手に入れること自体が容易ではなかった。現場の作業員に日報などで業務内容を事後報告させるやり方では信頼性を欠き、メッシュが粗くなる。過去には専用システムを導入したこともあった。しかし、これも作業の負担になり定着はしなかった。

 

ロジメーターは、現場に設置したカメラ付きタブレットに作業員が自分のカードをかざすだけで、個人別の作業内容を正確に測定して、必要な切り口とメッシュでデータを分析できる。月額利用料は最小1万円から。大きなイニシャルコストを掛けることなく始めることができた。

 

ただし、協力会社は労務実態を荷主にオープンにすることには抵抗がある。原価が丸裸になってしまうからだ。三菱食品は、ロジメーターを導入する狙いが現場の雇用の安定にあること、協力会社の懐に手を入れるつもりなど決してないことを、繰り返し丁寧に説明して協力を求めた。

 

白石室長は「荷主と物流事業者のパワーバランスは既に逆転が始まっている。従来は物流事業者が仕事を求めて荷主にアプローチしていた。しかし、今後はリソースのあるところに仕事が集まるようになる。今や物流事業者と荷主が一心同体で物流課題に対処していかなければならない時代になった」という。

 

荷主側には物量の見込みやイベント情報など物流会社に伝えていない情報がある。一方、物流会社も過去の労務実績や作業員の属性など荷主の知らない情報を持っている。これをお互いに共有することで、人員の安定的な調達や適正配置を前に進めることができる。

 

ロジメーターを導入した三菱食品の拠点では現在、カテゴリー別の協力会社の収支と納品先別・作業別の人時生産性を日次で管理している。週1度の定例会議では、三菱食品と協力会社の管理者がデータに基づいて、波動に合わせた人員計画、人員配置の最適化、課題や改善策などを検討している。

 

そこで使用する各種の資料は、三菱食品の管理担当者がロジメーターのデータをエクセルファイルに移して加工している。資料の作成には手数がかかっている。KURANDOはその作業を自動化する簡易BIツール「Logiscope(ロジスコープ)」を今年4月にリリースした。当面、ロジメーターのユーザーには無料で提供する方針だ。

待機時間削減にも人時を投入

ロジメーターを導入したセンターでは、現場の作業員一人一人の生産性から、雇用形態、時間帯、属性などの働き方まで見えてきた。その結果、従来の労務管理の常識が必ずしも正しくはなかったことが分かってきた。「一般的な先入観では高齢者やギグワーカーは生産性が低いと考えられているが、それは実際に確認できている事実なのか。例えばベテラン作業員だと60代後半でも生産性はトップクラスだし、ギグワーカーには若い世代が多いため、初めての作業でもすぐに端末を操作できる。しかも、ギグワーカーといっても毎回違う人が来るわけではなく、顔ぶれは決まっている。現場をデータで捉えることは、そうした事実を正しく把握することだ」と白石室長。

 

現状では各地の協力会社がフルタイムのパートを募集しても、ほとんど応募はない状態だ。しかし、例えば就業時間帯を子どもの帰宅に間に合う16時までに区切れば、主婦層の応募はある。20代の若手作業員も短時間勤務のギグワーカーなら集まる。跡治永 物流オペレーション本部 戦略オフィス室長は「そうしたリソースを活かすには、業務に応じて人を集めるのではなく、人が集まる時間帯に業務を実施するという発想の転換が必要になる。どの作業工程に何時から何時まで何人が必要なのか。それが分かってくれば、従来とは全く違う人の集め方ができる。それを実施することにより、持続可能な物流の実現につながると考えている」と説明する。

 

三菱食品は出荷作業の改善と並行して、新たに入荷作業にリソースを投入する取り組みを開始した。納品ドライバーの待機時間短縮が目的だ。従来は荷降ろしや搬入を納品ドライバー任せにすることで荷役時間が長くかかり、後続のドライバーまで待たせてしまうところがあった。これを解消するため、ドライバーが使用するパレットや荷受けスペースの確保などを、庫内作業員が事前に準備しておくことで、荷役をスムーズする。そのために庫内作業員の増員が必要であるのなら、その費用を三菱食品が上乗せして支払う。

 

跡治室長は「着荷主にとって入荷は従来、コストをかけるところではなかった。しかし、政府の政策パッケージや物流適正化ガイドラインでは、待機時間の削減が荷主の責任として明確に位置付けられている。今までの常識は通用しない世の中になる。われわれもマインドセットを変えないといけない」という。

 

白石物流DX推進オフィス室長は「これまでは物流の与件が上から現場に落ちてきていた。しかし、今後は現場の労働力を制約として、限られたリソースをいかに効率的に使うかという組み立てになる。そのためには、われわれ卸が変わるだけでは十分ではない。卸の先には小売りがいて、さらに先には消費者がいる。物流の与件がそこから来ているのであれば、それを変えてもらう動きをしていかないといけない」という。データに基づいて製配販3層の全体最適を提案していくことを卸としての責務と捉えている。

ロジスコープのレポート画面の例。ロジメーターや外部システムから得たデータを連携し、任意のKPIで手間なく集計・分析ができる

 

※上記はLOGI-BIZ onlineにて掲載された取材記事です。