CASE STUDY

導入事例

可視化から始まる対話が組織を変えていく データを基に自ら考え行動する物流部に

伊藤忠商事 繊維カンパニー様
お話を伺った方
伊藤忠商事繊維カンパニー 繊維デジタル戦略室 室長 若谷哲也 様(写真左)
Change Agent 代表 横山康弘 様(写真右)
ご利用サービス
事業
製造・小売

伊藤忠商事の繊維カンパニーが傘下の事業会社を対象に物流DXを推進している。実態を見える化したデータから課題を抽出して解決策を導き出す。「ロジメーター」を導入して改革に先行した事業会社の取り組みをモデルに、全社の底上げを図っている。(進行役:本誌編集部)

繊維デジタル戦略室とは、どのような役割を担う組織ですか。

伊藤忠商事 繊維デジタル戦略室 若谷哲也 室長「システムの保守やセキュリティを担当する従来の情報システム部署とは別に、攻めの経営基盤強化につながるデジタル戦略を扱う専門部隊を組織しようということで2020年7月に新設されました。活動の柱は大きく4つ。①EC強化、②生産DX推進(素材・生産工程を含むサプライチェーンのデジタル化)、③データドリブン経営推進(AI・BIによるデータ活用)、そして④物流/IT改革です。主な支援対象は事業会社で、発足当初はコロナ禍の最中でしたので、EC売上を拡大することが急務でしたが、それと並行してデータドリブン経営手法の確立、テクノロジーを差し込んで業績を向上させていくということに取り組んできました」

事業会社とは具体的には?

伊藤忠・若谷「連結対象だけでも14社あります。その中からデータドリブンによる物流改革が進んでいる事例を一つご紹介したいと思います。『ポール・スミス』や『ランバン・コレクション』などのブランドを扱う製造小売りのジョイックスコーポレーション(JOI’X)では、物流業務を自社で運営しており、物流部に所属する社員にも販売やMD、企画などを経験した者が多くいます。そのため外部委託社員と違って、事業に対する意識が高い」

 「彼らは物流現場にいながら、コロナ禍で日々変化する市場のニーズを肌で感じていました。物流は事業活動と表裏一体の関係にありますから、事業の方向性に合わせてこれから物流をどう変えていくべきなのか考えることもできる。ところが、その力が従来は十分に発揮されていませんでした。そこでまずは物流部の発言力を高めようとメンバーたちに呼びかけました」

 「そのためには、物流をデータで捉えて説得力のある情報を社内に発信していく必要がありました。現状を可視化して課題を抽出する。そこから施策を立案して実施する──というPDCAを回したくても、データがなければ始まりません。そこが甘いと改善効果も出ない。そこで既知の間柄であった経営コンサルタントの横山さんの勧めもあり、物流の可視化ツールとして21年8月にKURANDOの『ロジメーター』を導入しました。その後横山さんには、物流業務プロセス可視化プロジェクトにおいて、『ロジメーター』データをより活用するべくご指導いただきました」

 

Change Agent 横山康弘 代表「ツールを導入すればデータは取れます。現場が見えるようにはなる。しかし、そのデータをどう活用して問題を解決していくのか。それも一過性のものではなく、自律的、日常的にどうやって組織の能力として継続・進化させていくかということに心を砕きました。そこで『ツールを徹底的に使い倒す』というビジョンを掲げ、皆様との〝ガチ〟な対話を通じて、現場主導の物流ダッシュボードの構築に挑みました」

「士気も高く順調な経過を辿ったのですが、この試みに一層の輝きを与えたいと考えて、『ダッシュボード構築コンテスト』を提案しました。現場で悪戦苦闘しておられる各拠点の皆様に、さらなる切磋琢磨を求めたわけですが、『飛び越えるハードルが高い方が燃える』と、センター長から心強いメッセージをいただき、逆に私が圧倒されてしまいました」

庫内に設置したタブレットにQRコードをかざすだけで各作業員の業務内容の詳細を把握できる

データを見て考え行動する

伊藤忠・若谷「データは見える化するだけではなく、解釈して予測に使ったり、社内に発信したり、行動につなげることで初めて価値を持つわけです。JOI’Xの物流部の月例会議資料も当初はエクセルで作ったデータが主でした。何が課題であり、どのような解決策が考えられるのかについてはあまり触れられていませんでした」

 「そのことを何度も繰り返し言い続けているうちに、スタッフがそれぞれ工夫をしてエクセルの帳票にメッセージを付けて報告するようになってきました。さらにロジメーターを入れてからは、『この種別のピッキングの作業生産性がこうでした。なぜなら〜』という表現になってきた。そこまでくればしめたものです。生産性が上がったのであれば、もっと伸ばす方法、下がったのであれば元に戻す方法を考えるようになる。それを可視化に続くステップとしてやり続けました」

 「ダッシュボード構築コンテストも、物流部のスタッフが自分たちは何をすべきなのか、自分で考えるようにすることが一番の狙いでした。ダッシュボードを構築するとなれば、ダッシュボードで具体的に何を見るのか、まずは管理の目的を考えなければなりません。自分の行動の理屈を自分で整理することになります」

 

CA・横山「行動につながるものになっているか、シンプルで直感的であるかなど6つの評価軸を示しながら、ゲーム感覚で構築してもらいました。最終的に提出されたダッシュボードは勝ち負けこそ付けましたが、どれも立派なものでした。負けたチームもコンペをすごく楽しんでおられた。これが『共創』なのだなと感じた瞬間でもありました」

 

伊藤忠・若谷「データを見て、考えて、行動して、その結果を見てまた考えることを通して、仕事の手応えや、やりがいを感じて欲しい。ツールの活用も実は現場の〝やる気〟が重要なのだと思います。繊維デジタル戦略室では現在、JOI’Xの好例をモデルケースとして、他の事業会社でもそれぞれ現状調査を要請して、物流の見える化から始まる意識改革を促しています」

効果は出ていますか。

伊藤忠・若谷「少しずつですが、着実な進歩の手応えを感じています。例えば、3PLパートナーからいただいた業務内容を元にダッシュボードを構築する事業会社が出てきました。別の事業会社がダッシュボードを通して3PLと対話して業務の効率化を実現したことを知ったからです」

「ダッシュボードを見ると、3PLは入荷の多い日には残業している。当然、それがコストに跳ね返る。しかし、事業会社は必ずしも入荷品を全て当日中に処理することを求めてはいなかった。見える化して対話をすることで前提条件が合っていないと分かった。その結果、最終消費者のメリットにつながらない業務に人件費を掛けることがなくなり、Win-Winの課題解決が実現しました。そうやって事業会社各社がマーケットインの視点を持ち、データからモノを考える経営手法を確立していくことを今後も支援していきます」

ロジメーターを導入したJOI’Xの物流センター。物流DXのモデルとなった

※上記はLOGI-BIZ onlineにて掲載された取材記事です。